山陽リレーコラム「平井の丘から」

桜の花々とともに  学長 齊藤 育子

掲載日:2019年4月10日

 本学の東門前の桜が、満開になっています。今年は例年より少し遅めだったように思いますが、咲き始めた頃に入学された新入生の皆さんもオリエンテーション期間が終わり、授業が開始されました。「入学式と桜」といったように、皆さまも桜の花にまつわる多くの想い出がそれぞれにございましょう。私は、山梨県甲府市にあるミッション系の短期大学に、教育原理等を担当する教職課程の専任教員として、1985(昭和60)年に着任いたしました。その山梨での8年間の暮らしのなかで、忘れられない場所があります。それは旧北巨摩郡長坂町(北杜市)の清春芸術村(Kiyoharu Art Colony)です。

 この芸術村は、もともと廃校になった清春小学校の跡地に建築されたのですが、子どもたちの手によって校庭に植えられたソメイヨシノが多数あり、それが実に美しいのです。敷地の中央には、「ラ・リューシュ」(La Ruche)と呼ばれる十六角形の建物があります。これは、芸術家たちの創作活動ができるアトリエなのですが、希望者に貸し出されています。このラ・リューシュは、パリにあるものと同じ設計図で建てられたとのことです。この広大な芸術村の敷地の中に、清春白樺美術館もあります。そこでは、武者小路実篤や志賀直哉等々の「白樺派」の書画や・原稿・近代洋画などが蒐集され展示されています。

 さらに、敷地内には小さな会堂がひっそりと建てられており、誰でも祈りの時が持てるようになっています。「ルオー礼拝堂」と名付けられた会堂は、宗教画家ジョルジュ・ルオーを記念して建てられたのですが、祭壇背後には、十字架のキリスト像があります。その像は、次女イザベル・ルオーによって寄付されたとのことですが、ルオー自身が彩色し、彼が毎日祈りを捧げていたそのものとのことです。そのほかにも、移築された梅原龍三郎のアトリエなどの施設もあります。この芸術村は、東京吉井画廊の吉井長三が、私財を投じて作られたといわれています。

 きっと誰も知らないことですが、静寂だったこの場所で、当時の私は、自己を見つめる時を持っていました。人は皆誰でも、どうしようもなく辛いこと悲しいことに立ち向かわなければならないことがありますが、自己を静かに顧みるには、静かな時間と空間が是非とも必要ではないでしょうか。桜の花が咲くたびに、私は甲斐駒ケ岳の山々を背景に咲く美しい桜の花々とともに、ラ・リュージュそして、自己と対峙したあの「静寂な時・空間」を思い出します。いくつになっても、ソクラテスの力説した「善く生きること(to eu zēn)」を目指し続けたいものです。

IMG_1434
〈本学の東門前の桜〉
最近の更新状況
3歳までは母の手で?  権田 あずさ[2019年7月26日]
いよいよオープンキャンパスが始まります  岡田 典子[2019年6月18日]
「ぼたもち」の思い出  廣田 幸子[2019年6月5日]
食品ロスについて考える  國本あゆみ[2019年5月30日]
なんとなくエコ  西村 武司[2019年5月7日]
虐待について考えてみましょう  荒島 礼子[2019年4月16日]
桜の花々とともに  学長 齊藤 育子[2019年4月10日]
春を感じる桜餅  松井 佳津子[2019年3月30日]
岡山の美味しい魚と気候変動(地球温暖化)  白井 信雄[2019年3月28日]
甘いものすきですか ~ 和菓子のすすめ  小野 和夫[2019年3月15日]
受験シーズンの思い出  田中 愛子[2019年2月28日]
ソーシャル・キャピタルと健康との関係について~母の足に転倒してできた傷の治癒過程に及ぼす影響~  人見 裕江[2019年2月15日]
湯たんぽのすすめ  奥山 真由美[2019年1月18日]
ベトナム フーコック島  海本 友子[2019年1月11日]
川の流れ・人の流れ・食の流れ  藤井 久美子[2018年12月25日]
広島の土砂災害  澤 俊晴[2018年12月10日]
学内の版画から−  児玉 太一[2018年11月30日]
「おもてなし」の落とし穴  松浦 美晴[2018年11月12日]
60年代の象徴「アイビールック」のVANを創った岡山の世界的な起業家  松尾 純廣[2018年11月5日]
"Degrés des âges"(Degres des ages)  高橋 功[2018年10月26日]
人はどのような『場』で成長するのか~変わるインターンシップの意味~  神戸 康弘[2018年10月16日]
災害後における子どもの心と生活  上地 玲子[2018年9月20日]
アンティックピアノの魅力  田中 節夫[2018年9月12日]
時間生物学や遺伝的要因と学生の朝の遅刻  今村 恭子[2018年9月6日]
大学コンソーシアム岡山の地域貢献委員長として「日ようび子ども大学」「エコナイト」を担当して  澁谷 俊彦[2018年8月27日]